丼氏のニコニコ動画アカウントで投稿されている作品群を見て、聴いて、周辺情報を調べて行く回です。前回までは割と周辺的な情報を集めて外堀の外堀を埋めていくような感じだったので、今回は同氏のニコニコ動画での投稿作品に焦点を当て、彼の音楽像やサウンドルーツに迫りたいです。
ニコニコ動画:https://www.nicovideo.jp/user/1030946
(wordpressへの埋め込み方はこちらを見たら出来ました、自分用のメモ)
サウンドルーツ① MIND ARTIST BGM集 (2008)
もっとも古い投稿は、アスキーの主催したツクール向けゲームコンテスト「Aコン」の第二回特別賞受賞作「MIND ARTIST」BGM集。わかんない単語だらけだが、タグ付けの内容などを加味すると、ゲーム製作ソフトRPGツクールDante98で作られたゲームのサントラのようで、「アスキー・エンターテイメントソフトウェアコンテスト」(略してAコン)の受賞作品のようです。グランプリを受賞すると賞金1000万(!)だったそうですが、「MIND ARTIST」は特別賞(賞金10万円)選出作品(1997年作)らしいということが、下記ページで確認できました(wayback machine大活躍)。どうやらゲームのデータも生きているようで、DLも現状できます。
https://web.archive.org/web/20160308144822/http://www.enterbrain.co.jp/gamecon/a_con2.html
Twitterから把握できた情報ですが、どうやら丼氏が好きだったアーティストの楽曲ということで投稿されているらしく、後にも触れるNALL(織城かなん) / Metrochipleとともに、同氏の音楽的な感覚に影響を与えてきた作品であることは間違いないようです。
このBGM集のサウンド面にも触れたいのですが、いかんせんチップチューンと呼ばれる音楽ジャンルには門外漢すぎるし、普及したPC実機の変遷とか技術的な背景知識も欠乏しているのでなかなか難しい…。これからわかるようになっていきたいところ。「PC-98の音は〇〇で、ファミコンの音は〇〇だ…」的な感覚が今後俺の耳に養われていくことを祈る。
ただ秋葉原BEEPに行くとよくかかってる音になんとなく近いなとは思う(あのお店の雰囲気最高)。リズムパターン、ベース、上物アルペジオ+主旋律みたいな、だいたい4トラックくらいの曲が多いかなという印象でした。
サウンドルーツ②【Dante98】NALL BGM集(1/2)
今は亡きログインソフコン誌休刊号に掲載されていた、NALLというRPGのBGM集とのこと。googleで検索をかけると「NALL保管庫」というページ(おそらく丼氏によるもの)が出てきたので、そこに記載された情報も載せておく。
「NALL」とは、LOGIN SOFCOM誌に掲載されていたRPGツクール製ゲームです。
著作者:織城かなん氏
掲載号:LOGIN SOFCOM10号
対象環境:PC-98シリーズ
(引用元:https://sites.google.com/site/sofcomnall/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0)
駿河屋で5000円で買えるみたいですね、プレミア付いてる…。
これも先ほどの「MIND ARTIST」と同じくPC-98で作られた音楽らしいが、パッと試聴してもわかるように音の厚みもトラック数もこちらの方が多い気がする。ソフコンno.10の発刊年を調べたがこちらも1997年ということなので、単純に音にデータ容量をどれだけ割きたかったのかの問題だったのかも。
このBGM集には「カッコいい!!」と思える音がいくつも含まれていたので、再生秒数箇所とともにご紹介。(秒数をクリックすると該当再生箇所に飛べます)
※スマホだと秒数指定が機能しない(?)みたいで残念…。
3:15辺りから鳴ってるヘロヘロした鐘のような音がヤバい。ピコピコ系の音って割とソリッドな出音が多い印象なのだけど、こんなに音程を揺らしたり出来るのかと。衝撃。音の加工もそうだけど、その機械でしか鳴らない実機の味のようなものが出てる気がする、普通に現行の電子音楽で鳴っててもカッコいい音だ。
イントロがなんてセンチメンタルな出音。かなりノスタルジックで好きです。その後の楽曲の展開のつけ方も、古いRPGの初期の村辺りで流れてそうな感じで好き。出せる音の種類やトラック数やデータ容量といった制約が多い中だと、いかに楽曲の展開を組み上げられるか、が重要になっていたのかもしれんね。
静かになり続けてるバックのコードの音色がかなり綺麗。
この辺りのコード展開の仕方は、丼さんの音源にも影響を与えてる気がする。っていうか俺が好きな楽曲がだいたいこういうコード進行してるな。BMS系の音楽にも共通してそう。
イントロが好き、明らかにピッチベンドしてるけど、PC-98でも可能なんですね。ピッチベンド大好き、全部ピッチベンドしてくれ。
リード・メロディーの音色を聴いて「摩訶摩訶」でよく聴く音に似てるなって思った。摩訶摩訶はSFCのゲームだけれど、似たような音が鳴ってるのは不思議。PC-98で作った音を、ファミコンのカセットに組み込んでいるのかしらん。
よく聴いてみると、機材の出音はそんなに似てないけれど、5音くらい下の音を同時に当ててメロが鳴ってるからこうなってるのかも。ピアノとか他の楽器じゃこんな不思議な鳴り方しないよね。それだけじゃないかもな、オクターブも噛ませてんのかな、耳が遠くてわからん。
サウンドルーツ②(続き)【Dante98】NALL BGM集(2/2)
幻想的。
ボリュームの上下を意図的にコントロールしてる。やはりある程度、ピッチやボリュームでオートメーションを書く機能はあったみたい。
(12/7 木曜日の作業はここまで。中野のまんだらけで買ったげんしけんを読んで寝ます.)
サウンドルーツ③metrochiple 初期ヴォコーダ曲集 (2008)
muzieにて活動していたmetrochiple氏の初期楽曲集。めちゃめちゃ良いです。本当に世の中で知られていなくとも無限に良い音楽が存在するのだなと改めて再認識。muzieは2001年から2016年頃まで続いていた、今でいうbandcampみたいなサービス。同氏は2005年にはネットから姿を消していたようで、初期音源集とのことなので、2001年~2005年頃の音源なのだろうと推察(2008年頃、16次元レコードかららのリリースオファーもあったらしい)。ヴォコーダーは1970年代後半からコルグやRolandから機材が出ていたし、2000年代には実機の他にもプラグインとかも出てただろうから使用機材の判定は難しいかもしれない。(※vocoderの使用機材はわからなかったけど、丼氏のHPからsamplecell2, vibra1000というサンプラーとシンセを使っていたとの情報あり、「angel_voice_techno_うた」を志向していたとのこと)
⇨1978年作”SUN LIGHT”収録の大傑作”I thought it was you”には’77年にSennheiser社が発売した「VSM 201」というヴォコーダーが使用されている。
こちらも、ぜひ試聴してもらいたい再生秒数箇所を抜粋していきます。
Aメロの無骨なマシーンドラム的な16分の上で、ベースがグルーブを生み出しながら、シンセ・メイドなストリングスと控えめに鳴るヴォコーダーがなんともセンチメンタルな不思議な魅力がある曲。隠れたアングラD.I.Yテクノポップの名曲だ。
ダークなイントロに昔のシンセの味が出てて良い。フィルイン的に使われるストリングスのコード進行もシンプルなのに、曲にメリハリを醸していて良い。
陰鬱でノスタルジック、幻想的なイントロ。暗くてロー・トーンの音楽最高。どうしても現行の音楽と比べるとチープになってしまうのかもしれないが、それを上回るくらいに機材の味というか、その時代にしか無かったものの手触りを感じられるのが良い。魅力的。
Aメロとサビのコード進行が面白い。昔のゲーム音楽を掘っていてもコード進行の自由度が良いなと思うことがある。
metrochiple氏の楽曲と丼氏の音楽の繋がりは何となく感じられる。曲調の静動問わず、センチメンタルな音の鳴らし方のような部分でどこか引き継いでいる部分があるように思える。
ボカロ楽曲①【鏡音リンオリジナル曲】スズラン【ピコピコ】(2008)
上記に挙げた他アーティスト音源の投稿を除いた、最も古くに投稿された楽曲が「スズラン」。ファミコン音源とボーカロイドで仕上げられた楽曲で、中盤からベースが入るのもカッコいいold-schoolなチップチューン・ボカロ曲。
コメント内の情報を拾ってみると、どうやら2010年にUKの<hyperdub>からLVとQuarta330によるリミックス音源がリリースされていることもわかった(Dommuneで流れたこともあるらしい)。
hyperdubといえば、ダブステップ~ポストダブステップの源流「Kode 9」がオーナーのサウスロンドン発の超名門レーベル。有名どころだとBurialやLoraine Jamesを輩出してるし、日本人だとfoodman(食品まつり)のリリースとかが有名ですね。
kode9の”black sun”は上京したてのときによく聴いていて、渋谷のタワレコで台湾のバンド”透明雑誌”のCDと一緒に買った記憶があります。
RP Booなどが代表的なJuke / footworkというジャンルを友人から教えてもらった時は、このレーベルから出ているJessy Lanzaの”Oh No”をめっちゃ聴いていました。懐かしい! (burialは実際あんまり聴かずに育ってきました…、この辺りの音楽を掘る時は下記の「ベース・ミュージック・ディスクガイド」を使っていました)
そんなゴリゴリの名門レーベルから初投稿のボカロ楽曲のリミックスがリリースされてるのは、かなり異様ですごい、似たような事例を聞いた事がない。さっきのJessy LanzaのEle-kingのレビューの中で、「ディーン・ブラントのようなエクスペリメンタルな個性を生かせるレーベルであり」ともあるから、かなり懐が広くて、チップチューン的なサウンドにも理解があったんだなと思う。
脱線しまくりだけど楽しい(白目)。少し本筋に戻って、丼さんがどんな経緯でUKと繋がっていったのか気になるので、もう少し調べてみる。
DISC SHOP ZEROというレコ屋のwebで紹介文を発見。2009年開催のHYPERDUB5周年イベントでLVとQUARTA330が繋がったとのこと。
LVは、Will Horrocks, Gervase Gordon, Si WilliamsによるUK在住ユニットらしい。QUARTA330(Toru Koda)という方が、Hyperdub所属の日本人のようで、どうやら2011年以降はチップチューンに主軸を置いた作品のリリースをしていたらしい。つまり、チップチューンに関心のあった”QUARTA330″が、UKのLVと周年イベントで繋がって、「チップチューンの名曲と言えばスズランや!」みたいな流れでこのリミックスが誕生したといえるのかもしれない。音楽活動においてやっぱり繋がりって重要ですね、予測不能な音楽が生まれる可能性に満ち満ちている。
quarta330氏は日本最古のCHIPTUNEイベント”Lo-bit Playground“を主催しており、イベント解説には「わずか3~4音程度のビープ音だけで独特の世界観を作り出すアーティスト集団によるイベント」とあった。Youtubeで観るだけでも面白そう、深く鳴るクラブの低音の中で聴くチップチューンってどんな感じなのだろうか。”3~4音程度のビープ音だけで”とあるように、チップチューンは”制約”と隣り合わせの音楽ジャンルなのだなと感じた。
イベント参加者を見てみると、前回の記事で触れたレーベル”RISKSYSTEM”主催のTanikuguさんの名前もあり。前回のリサーチ内容と繋がっていく部分があって良かった、外堀を埋めるのは無駄じゃない。ちなみに、Tanikuguさん関連の音源は中野MECANOに置いてあり、入手出来ました。Quarta330、Lo-bit Playground、Tanikuguは日本のチップチューンを掘る上で重要なキーワードになりそうなので今後も覚えておこう。(あと今後どこかで触れたいのだが、ボンバーマンシリーズのOSTを手がけるChikuma Juneさんもチップチューン楽曲でNTS Radio出演していたりするので絶対重要)(周辺情報を漁って出てきたLSDJ、nanoloop、CheapBeatsというワードも今後調べたい)
今日はここまで。2023/12/8
The next time I read a weblog, I hope that it doesnt disappoint me as a lot as this one. I mean, I know it was my choice to read, however I really thought youd have one thing fascinating to say. All I hear is a bunch of whining about something that you could possibly fix when you werent too busy looking for attention.
>>kyrie 9 さん
First of all thanks for reading this blog, I didn’t expect someone from overseas to read it.
I am very glad you gave me honest feedback.
I feel sorry that you were disappointed by the lack of content in my blog. I myself still don’t think that my text contains any important suggestions (fascinating insights) that music fans would appreciate. I am also aware that I do not yet have the ability to produce such a text.
I hope to find and present some interesting facts and interpretations in my future research.
Hope you will visit my blog again if you like, Thanks.
Kankaku
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