フリーゲーム「SOUP」(2007)を追う⑴ インターネットレーベルの勃興、チップチューン、ナードコアを巡る周辺情報

楔のように、何年経っても心に深く打ち込まれている音楽がいくつかある。今作SOUPのOSTは間違いなくその一つ。僕がこの作品と出会ったのは2011年頃のニコニコ動画の実況プレイ動画(現在は削除済み)。”LSD”や”ゆめにっき”といった徘徊系ゲームが流行っていた頃、ネットを彷徨っていた時にこの作品と出会った。2007年に16次元レコードのオーナーヤルハラ(丼、Dong)さんが制作したこのゲームについて、ネット上での言及は意外にも少ない。その一方で、海外のクリエイターたちの間で現在進行形で、このゲームの拡張版の制作が進んでいたりと、一部のシーンで賑わいを見せているようだ。手に入る情報を総動員し、この作品が持つ魅力を複数回かけて追っていきたいと思う。

※このブログは、自分のディグやリサーチのログを残すことが主目的です。読みにくいとは思いますが、脱線を怖がらず、肩肘をなるべく張らずに、ベラベラと好き勝手書いて記録していきます。

宅録〜D.I.Y.ミュージック・ディスクガイド “HOMEMADE MUSIC”(江森丈晃 編著,2011年)

SOUPについては、ずっと何かしら書いてみたいと考えていたが、だらだらと先延ばしになっていた。しかし今回満を持して書こうと思えたのは、このディスクガイド”HOMEMADE MUSIC”内で、やるはらさんに関しての言及を見つけられたのがきっかけ。この本はアシッドフォーク好きの職場の先輩が退職する際にいただいたもので、いわゆる自主制作盤を掘るためのディスクガイドととしてかなり面白い本で、暇を見つけては読み進めていた。内容もさることながら、この本が持つ熱量が凄まじく、日々の雑務に忙殺される中で「音楽を聴く喜び・楽しさ」を忘れ、感覚が麻痺していった時には、「この本を読めばなんとかなる」と思えるくらいには絶大的な信頼をおける、ある意味自分の中での「バイブル」となっている名著だ。以下に”ヤルハラ”さん言及箇所を引用しておく。

現在につながる意味での国内最古の(インターネット)レーベルといわれるのは、丼(ヤルハラ)とSUG(スギノヤ)を中心に2001年に発足した学生音楽集団ヤングスポーツである。自サイト配信/アップロードでは無く、muzieに複数人の楽曲をアップロードしていく活動をメインとし、ネットラジオのストリーム配信なども行っていた。音のスタイルはテクノ、チップチューン、アンビエントをはじめ多彩。2004年春頃に卒業によって終了したようだが、muzieにアップロードした楽曲全55曲は現在も試聴可能だ。終了記念に音系同人の即売会M3でDJ銚子が全曲ミックスしたCDRを販売した。このヤングスポーツの面々のうち、丼は16次元レコードを立ち上げ、SUGは”ディスク百合おん”名義で活動し胸毛レコーズを主催、DJ銚子ことguchonはCDRレーベル日の出木工所とネットレーベル鯖缶レコードで活躍する。(中略)

チップチューンを主軸とする16次元レコードは2006年11月開設。主催者の丼はその前からゲームサイトを運営、Dong名義で音源もリリースしている。チップチューンはファミコン音源のようなチープな音色が魅力のひとつだが、ゲーム音楽のアレンジはもともと同人音楽の中でも主流で、親和性が高かった。そのため、”16次元”は最初はネットレーベルより同人音楽文脈で知られており、リリース作品も過去にM3などで発表した音源の再公開が少なくない。架空のゲームのサウンドトラックを聴いているような、センチメンタルなムードが漂う『Gone Square』などを推薦したい。

(“「内側を向いたまま巨大化していく文化」インターネットと音楽、日本のネットレーベルとその周辺” interview & text:ばるぼら Barubora,p231〜243より引用)

16次元レコードの前身というか、その前の活動として”ヤングスポーツ”なるものがあるのは初めて知った。大好きなゲームの制作者である以上に、どうやら日本のインターネットレーベルの歴史上の重要人物でもあるらしい。ヤングスポーツ関連はググってみたけど、参考になりそうなネット記事は下記2つくらい。muzieに上がっていたという音源もなかなか見つからない。M3で販売していたというミックスCDRコンピの名前とかわかるといいんだけどな。

https://note.com/bxjp/n/n0560e9398085

http://haguredjdou.pico2culture.jp/article/60855155.html

推薦されていた『Gone Square』は16次元レコードのページから試聴・DL可能になっていた。16次元レコードの作品群は、また日を改めて順次聴いていきたいのだが、ヤルハラさんの音楽が聴ける場所をわかっている範囲で下記にまとめておく。

16次元レコード:https://label.16dimensional.com/

ニコニコ動画:https://www.nicovideo.jp/user/1030946

サウンドクラウド:https://soundcloud.com/yarhalla

Youtube:https://www.youtube.com/@yarhalla1

※プロフィール:https://yh.16dimensional.com/

※Discogs:https://www.discogs.com/ja/release/1227510-Dong-Gone-Square

ディスク百合おん,胸毛レコード,ナードコア

とりあえず、HOMEMADE MUSICの同記事で言及されていたアーティストの音源も聴いてみようと思う。好きなアーティストの同時代に鳴っていた他の音楽を掘ることは、巡り巡って目当ての作品への理解を深めてくれる(そういう音楽のスタイルを”選択しなかった”という意味で)と思うので。

ディスク百合おんさんの名前や<胸毛レコーズ>というレーベル名は、今でも結構耳にするし、最近だと七夕の日に8cmCDで新譜がリリースされていたのも記憶に新しい。ナードコアテクノミュージシャンとして知られているようだが、聴いたことがなかったのでDiscogsで記載のあった一番古い音源”ディスク百合おん – ちぎれた愛”(2007年)を聴いてみた。

楽曲を聴いてテクノのサブジャンルをパッと出せるほどの知識はないけれど、全体的に何と無く時代を感じさせる一世代前の電子音やリズムパターンが鳴っている感じがして、空気感がカッコイイ。特筆すべきはアニメ声のサンプルが用いられているところかもしれないが、アニメ声以外にも、M4収録のHalは松任谷由実の「春よこい」が大々的に使われたマッシュアップ?リミックス?というのか、J-POPの音楽も使用されているようだった。

AVYSSのイベント情報を追ったりしてても頻出する”ナードコア”ってなんじゃらほい状態なので調べてみる。今年の3月くらいに確かディスクガイドが出てたよなと思って検索してみると、下記サイトで公式に無料で読めるようになっているらしい。ありがたい。以下ナードコアの定義に関わる箇所を引用しておく。

https://archive.org/details/ians-nerdcore-encyclopedia/page/366/mode/2up

ナードコアをものスゴく簡単に言えば、ネタをサンプリングしたテクノといったところでしょうか。しかし、自分で言っておいてなんですが、そんな定義自体が的外れだったりします。ですのでここからはメディアから得た情報ではなく、私が考えているナードコアとなります。まず、ネタのサンプリングを入れた楽曲がナードコアかといえば全然違います。逆に、何のネタも使っていない楽曲でもナードコアと呼ばれるものがたくさんあります。私の考えでは、「何かのネタを入れ込む」のではなく、「自分の好みを入れ込む」のだと思っています。また「ナード」の意味を「(何かが)好きすぎる」だと思っています。ですので「ナードコア」というのは、その好きすぎるものへの愛情をテクノミュージックを通して見せつけたい気持ちで作られた音楽なのでしょう。もちろんネタのサンプリングを主にして作られることが多いですが、そればかりではありません。自分の好きなものを思って作ったインストの楽曲も、好きなものについての思いを歌詞に込めた楽曲も、オリジナルだろうが何だろうが、作った人がこれはナードコアと思って入れば間違いなくナードコアなのでしょう。もちろんその「好きなもの」は何でもいいでしょう。アニメやゲームなどが多かったりしますが、ドリフだっていいじゃないですか!人の好みの種類がより沢山の「ナードコア」を作り上げるのです。そういう意味では、ナードコアの枠も寿命も果てしなく広がるのではないかと思います。

「ナードコア」という言葉が考えられる以前である初期の頃(おおよそ1994年から1997年ぐらい)、もしかしたら「ジャンル」だったことが一瞬あったかもしれません。音楽の「ジャンル」は基本的に音と深く紐付けられていますよね。「ナードコア」という言葉が出てきた頃、その界隈の人たちはそれぞれ幅広い音楽、幅広いパフォーマンスを行っていました。その全てをまとめて一つの「ジャンル」と考えるのは間違えではないかと考えます。それも踏まえ、多くのミュージシャンが活発に活動していた頃(おおよそ1998年から2002年ぐらい)にはすでに「ジャンル」ではなく「ムーブメント」ではないでしょうか。しかし、そのムーブメントが収まった、今の「ナードコア」は何なのでしょうか?個人的な意見とすれば「考え方」だと思います。「好きなものを使って、かっこいいテクノを作りたい」そういう考え方は、1994年の初期のインターネットにも、2000年のナードコアブームにも、現在の2017年にも、それなりに存在しているのではないでしょうか。

(イアンのナードコア大百科 Ian’s Nerdcore Encyclopedia (On-Demand Version),p.366〜367より引用)

好きすぎるものへの愛情をテクノミュージックを通して見せつけたい気持ちや考え方、というのがナードコアという言葉に込められた深層の意味っぽい。「ドリフだっていいじゃないですか!」の文言を見て、これはもしかしたらサイケアウツのことかもと思い、同書を読み進めるとサイケアウツの解説ページも存在した。

改めて聴いてみると、うる星やつらのネタが使われた曲もあるし間違いなくナードコアにも関わりが深いアーティストなんだなと思った。バックで鳴ってるドラムンベース(ジャングル? )もめっちゃかっこいい。

http://haguredjdou.pico2culture.jp/article/60855155.html

上の記事は、鯖缶レコードのぐちょん氏、コボチャン氏のユニット”ハイドロポンプ”のインタビュー記事だが、そちらでもサイケアウツの音源のやりとりが結成に関わっていることが言及されているし、やはり2000年代に活躍するナードコアを含んだテクノ・ミュージシャン達に大きな影響を与えている様子がうかがえる。

サイケアウツはエムレコードから今年に出たCDを買ったくらいだけれど、90年代関西アングラシーン、インダストリアル/ノイズ/パンクとか、あらゆる音楽を掘る上で重要なアーティストっぽくて、調べたいことが山のように出てくるのでまたの機会にちゃんと聴きたい。

DJ銚子,guchon,日の出木工所

ナードコアディスクガイド本にguchonさんの記載もあったので、引用。

ぐちょん(guchon) a.k.a. DJ Choshi, DJ mastervater, Ero Sex Boing, fake sabacan records, Tenga, アーメン花子、銚子 / 2001年頃から活動しているテクノアーティスト。2002年から2005年までは個人レーベル「日の出木工所」の主催者。初期は「DJ銚子」名義でファミコンDJなどもしている。ユニット公衆ホルモンのリーダーでもある。2006年から現在にかけて鯖缶レコード(2010年頃閉鎖してのちに復活?)の主催と共に多くのコンピレーションに参加、そしてMerry Worksからもアルバムを出している。コボちゃんとのユニット「ハイドロポンプ」、そして同じくコボちゃんとSylvanian Familiesとのラップユニット「Toilet Delight」としても不定期で活動。2013年からは藤子名人とのレイブユニット「国士無双」を中心に活動しています。

(イアンのナードコア大百科 Ian’s Nerdcore Encyclopedia (On-Demand Version),p.352〜353より引用)

初期はファミコンDJをしていたということで、ヤングスポーツのミックスCDRの中身はもしかしたらファミコン系の音楽だったのかな、ということも推察される。

※guchon氏Discog:https://www.discogs.com/ja/artist/799186-Guchon

http://maltinerecords.cs8.biz/35.html

シルヴァニアファミリーさんの音源でマルチネからリリースされてるものがあって聴いてみてるけどカッコいい。上記のマルチネのサイトにguchon氏のコメントが記載されているが、akufenの記載もあってめっちゃ懐かしい!と思った。僕も昔(大学1年の頃だから2013年くらい?)友人にakufenを教えてもらった時は衝撃だった。マルチネのサイトの分類だと、”Scam Cat”は「Cut Up」のタグがついていた。

DiscogsのタグだとakufenにはSound Collageがタグづけされていて、確かに2010年頃のハウスミュージックとかめちゃめちゃこの手法流行ってたなと思い出す。俺が初めて認識したのは、FPMとかだったと思う。めっちゃ好きだったな。

ワードプレスでbandcampのリンクを埋め込む方法がわからないのだけど、sabacan recordsは現在も活動しているようで、stones taro、BUDDHA HOUSEなどの作品もリリースされているようだった。クラブユースの良音源が沢山あったので今後もチェックしたい。

https://sabacanrecords.bandcamp.com/album/sekigahara-dorj

今日のディグ(リサーチ?)の結び的なもの

ヤルハラさんが属する”ヤングスポーツ”のメンバー、ディスク百合おん氏、guchon氏の音源や記事などを調べた一日だった。ヤングスポーツからのリリース作品が聴けない今、内容は想像することしか出来ないが、少なくとも、集まっているメンバーの音楽的嗜好から察するに、電子音楽やテクノを愛していた集団だったのだなと思う。その上で、ヤルハラさんが<チップチューン>というステージでの活動を選んだのは、興味深い。ナードコアを始めとするサンプリングやネタモノ、クラブユースのテクノミュージックではなく、なぜチップチューンだったのか?他のメンバーとは一線を画して、独自路線を進んでいったヤルハラさんの音楽的なルーツに次回は迫れたら良いと思う。疲れたので今日はこの辺でおしまい。

2023/12/5

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